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須賀しのぶ「芙蓉千里」「北の舞姫」

芙蓉千里

芙蓉千里

明治40年、中国ハルビン市に自ら人買いに自分を売った少女「フミ」の物語です。ちょうど私はこの本を購入する前に浅田次郎の「蒼穹の昴」を読んだばかりで、この話がちょうど明治20年頃の中国が舞台ですから、ものすごく興味深く読めました。中原の虹も読んどけばもっと面白かっただろうなあ。あとちょうど森薫の「乙嫁語り」も読んだ後だったのですが、これもほら、19世紀後半のモンゴルが舞台で、不思議と今読んでるものが微妙にアジア、近代に集中していて不思議でした。とは言え乙嫁語りはあんまり関係ないんですけどね。
蒼穹の昴はあくまで中国という国の目線で語られた話ですが、芙蓉千里はロシア領土であるハルビンがメインだったので、ロシアの中の日本目線というイメージがしました。とはいえ当時の世界情勢の混沌ぶりがすごく、どの国を見ても今よりもずっと強引で、土地をどうやって広げるか、権力をどうやって強めていくか、という事が生生しく、そしてその中にある日本というのはやはり内部の事に奔走していて外向きには非常に優柔不断で、弱く、そうでありながらも狡猾でした。そしてその中で暮らす市井の人々というのは、ぐるぐると変わる情勢の中を必死に生きているんだなあと思いました。そんな人々の一人としてフミという女性はいます。
彼女は日本のおいては底辺に生きる子供でした。しかし底辺に生きているが故に生きぬく力はとても強く、大胆で、そしてずる賢く、そうでありながらも女性らしい情愛が深い、魅力的な女性です。そして才能も持っている。その才能と、情愛のはざまで揺れ動きながら、波乱万丈の人生を生き抜いていくわけです。そのすさまじさと、彼女のもつあっけらかんとした力強さがこの物語の最大の魅力です。
とはいえこの話はどちらかと言えば恋愛小説になるのではないのでしょうか。その恋愛要素も須賀しのぶらしくて私は好きなのですが、歴史ものだと思うと物足りない部分もあるかもしれません。