ちえこ風呂具

日々の事とかTOKIOとか織田信成君とかフィギュアスケートとか

宮部みゆき『ブレイブストーリー』

ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)ブレイブ・ストーリー (中) (角川文庫)ブレイブ・ストーリー (下) (角川文庫)
映画になる前に妹が買って来てたので読みました。
 読んだら止まらなくなって通勤時間に読み、昼休みにも読み、家に帰ってからテレビやゲームや他のいろんな楽しみやら時間の隙間やら、すべて横に追いやって読み、そしてついに下巻を読んでる途中の妹に追いついてしまいました。
 でも先に読んだらダメって言われてしまいました。
 でも実は会社のおじさんも購入していて読み終わっていたので借りてしまいました。4日前から読み始めて本日読了。妹には「お姉ちゃん…そんな必死にならんでも…」とあきれられ………。しかたないのよ、基本がオタクだから。冒険活劇というのは駆け足で読んでこそ面白いと思うんだよ、妹くん。世界に没頭してこそ得られるあの開放感。さわやかさ。君も味わってみないかね?

そして内容なのですが、この話は主人公三谷亘の内面を描いた物語だと言えます。現実におきる葛藤や苦難を乗り越える様を、ファンタジーというフィルターを通して描く…というと荻原規子の「これは王国のかぎ」に通じるものがあるのかな〜。でも現実世界の重さという部分では小野不由美の「月の影、影の海」にも近いかも。丁度ふたつの作品を足して2で割ったら「ブレイブストーリー」のような話になるのかもしれませんね。
で、ここからネタバレ
現実世界の重みに耐えられなくなった少年、三谷亘は、同じような境遇である芦屋美鶴に薦められて、幻界(ビジョン)の扉を開ける。そして不運な自分の運命を変えるために、現世(うつしよ)から来た旅人の願いをひとつだけ適えてくれるという、運命の塔に居る女神を探す旅に出ます。
 この幻界(ビジョン)というのが、現実世界の人々の想像力をエネルギーとして形成している世界で、そして旅人の心を通して姿を変えます。旅をする中で、平和でありながらも、すばらしい仲間に囲まれながらも、不条理な幻界の姿にワタルは何度となく戸惑います。これは「運命の女神」という世界を紡いでいる主の姿があるからこそ「どうしてこんなことを女神が許すんだろう」と深く惑います。また自分の心を写すからこそ「僕はこんなことを望んでいないのに、どうしてだろう」と。ここで中巻に出てくる星読みのバクサン博士はそのことについてこのような事をワタルに告げます。

答えはひとつぢゃ。よろしいかな。それはあなたの心のなかにも、それらの理不尽が存在するからぢゃ。己と姿形の違うものを嫌ったり、考えの違うものを退けたり、何かを厭うたり、誰かを嫌ったり、他人よりは常に良い思いをしたいと願ったり、他人の持っておるものをうらやんだり、それを奪おうと企んだり、己が幸せになるために、他人の不幸を望んだりする心が、あなたのなかにも存在するからぢゃ。幻界の有りようは、ただそれを映して形にしているに過ぎません。

あなたは勇敢ぢゃ。あなたは優しい。あなたは他人を思いやる。あなたは善良ぢゃ。しかし、そのあなたの中にも、憎しみがあり、妬みがあり、破壊がある。それはどうすることも出来ぬ真実。目をそらし、背を向けて逃げ出すことは出来ぬ真実。
ブレイブ・ストーリー (中) (角川文庫) 423p より

人の心を映しながらも幻界は幻界として確固とあり、ワタルとミツルは出会うことができ、対立したりするあたり、非常に曖昧で分かりにくい世界だなあと、私は読みながら疑問を感じていたのですが、これを読んでもしや、と思いました。
 幻界のシステム自体も、もしかしたら旅人によって変化するのではないのだろうか、と。ワタルはミツルと同じ世界を旅しているように思っていましたが、そのミツルの存在も「コンプレックス」という名の分身(ダブル)ではないのだろうかと。ミツルは同じ世界を旅しているようで、実は別の世界を旅してたんじゃないのかと、そんな事を思いました。
 なぜ幻界のワタルああも勇気に溢れ、賢くあるのか。それはそれ自体がまさしくワタルの理想とする勇者であったから。ではなぜ、情けなかったりもするのか。それはワタルの現実だから。RPGのような世界はゲーム好きのワタルが想像するファンタジーの世界そのものである。南の大陸と北の大陸に別れているのは、自分の中の不幸を寄せ付けないためであり、ワタルを導く存在は理性や希望そのものである。そうすれば、ラウ導師や運命の女神以外のすべてのありようが、実は一人一人違うものであっても不思議じゃないんじゃないのかな〜、と思いました。
 そしてそうすると後々出てくるいろんな意味での疑問*1も一応解消されちゃったりするんですけど、どうなのでしょうか。まあそう考えると別の疑問も沸いてでてきちゃうんですけれどもねぇ。
ともかく面白かったです。長いかも…と思って読み始めたけど全然でしたね〜。

*1:なぜミツルは一時期だけとは言え、旅人の称号を得ながらも学校に通えたのかとか。対決に負けて死んでしまったのに、現世では生きているっぽいとか。