ちえこ風呂具

日々の事とかTOKIOとか織田信成君とかフィギュアスケートとか

杉本亜未「ファンタジウム」

まさにアメリカの手品だな…しかし人間は詐欺をする為に生まれた生き物だ
奇術師ならわかるだろ!

普通の人間の目には見えなくとも
この感触とこの音が
手と!!
耳で!!
本物であることが!!

 ファンタジウム#86 マイザーズ・ドリーム07より

ファンタジウム(7) (モーニング KC)

ファンタジウム(7) (モーニング KC)

ファンタジウム(8) (モーニング KC)

ファンタジウム(8) (モーニング KC)

以前1、2巻のレビューを書きました。その後細々と買い続けていたのですが、去年めでたく完結しました
…が!本屋にないんですよ!!
で、今日ようやく7、8巻を購入して読んだらやっぱりすごくて何か書きたくなってしまった。でも9巻が本屋になかった…ので8巻までの感想です。
8巻は上記の矢口さんの言葉がとても印象的でした。マジックというものが、実は見ている人間の潜在意識と思い込みの錯覚を利用したものだということは、いまや大人であればほとんどの人間が認識しているでしょう。それは芸能界にも通じる部分があると私は最近よく思います。突然ブームが巻き起こったり、また突然反感を買ったり、芸能界はマジックのようだな、と思います。
主人公の長見良は、類稀なるマジックの才能とそして大人顔負けの話術とキャラクターで芸能界で頭角を現します。でもプロダクションの戦略という闇のマジックに、彼は徐々に疲れ、悩みはじめます。
彼にとってマジックとは、いつでも人を笑顔にするものです。
でも芸能界のマジックは、時に人を貶めます。彼の望む喜びに勝ち負けはありませんが、芸能界という世界は人気という勝ち負けを、テレビという娯楽は視聴率という勝ち負けを求めます。
テレビは夢まぼろしです。そのまぼろしに人は惑わされます。芸能界の栄光によって嫉妬が生み出され、良は現実の学校社会で恨みを買い、今まで以上のいじめを受ける事になります。また反対に良がテレビで脚光を浴びて、マジックのもつすばらしさというものも同じように注目され、認知されていきます。
クロスプロの岩田や黒須はその夢まぼろしこそが何よりすばらしいものだと解きます。どんなに孤独でもその闇が暗かろうとも、誰もが手に入れられないものを持っているその大きな光をどうにかして輝かせ、その恩恵にあずかりたいと望んでいます。マジシャンの中には良のもつカリスマ性、マジックによって人を喜ばせようとする精神が人々を幸せにすることを解きます。
またずっと不憫だと思ってきた両親や相方の北条は、彼が栄光と闇を同時に受けていくことに複雑な思いを募らせますが、彼の才能が開花し、喝采を受けることを止められません。どうにかして栄光を手にしながら現実世界の平穏を願います。でも彼らが思う平穏は、平凡と同じことであり、それが自分には手に入れられないものだと良は知っています。
この自分を取り巻く、疎ましい人たち、愛おしい人たちの思いの狭間で良は悩みます。大人の経験と子供の思考で、何が自分の生きるべき道なのかをじっと考えます。自分の人生と愛すべきマジックをどう扱うべきなのかを。
矢口さんの「しかし人間は詐欺をする為に生まれた生き物だ」という言葉が本当に不思議で、印象的で、でも納得できるものでした。
詐欺…「人を騙す」ということが、悪意なだけではなく、純粋な熱意や善意の中で生まれていくのを、この漫画では良く描かれています。人は騙す生き物である、それは時に他人であり、自分でもある。
「普通」に生きる人たちが自然に行う「嘘」を、良はマジシャンであるからこそ鋭く見抜き、また子供であるからこそ純粋に「それは必要なものなのか」と問い続けているように思います。
最終巻が手に入ったら、また新たな感想を書きたくなるでしょう。早く手に入れないと(笑)